ネットか、看板かではない|リアルとネットをつなぐ店頭集客

「これからはネットの時代だ」

そんな言葉を聞くようになって、ずいぶん経ちました。

実際、お店を探すときにGoogleで検索したり、Googleマップを見たり、SNSで評判を調べたりするのは、今では当たり前です。

だからといって、

「ネットが大事だから、リアルな看板はもういらない」

とは、私は思いません。

前の記事では、私は看板のことを、

「24時間、無言で文句も言わず働いてくれる営業マン」

だと書きました。

では、その営業マンとネットを組み合わせたら、どうなるでしょうか。

私は以前、商店街でちょっと変わった実験をしたことがあります。

始まりは、たったA4の紙一枚でした。

エイプリルフールに、商店街でウソをつこう

私がNPO法人ストリートデザイン研究機構に関わっていた頃のことです。

そのとき専務理事だったのか、理事長だったのか。昔のことなので、役職までは正確に覚えていません。

でも、企画を考えたときのことはよく覚えています。

東京・中野区の野方商店街で、

「エイプリルフールに、商店街のお店が一斉にジョークの貼り紙を出したら面白いんじゃないか」

と思いついたのです。

そこで、当時、野方商店街の理事長だった榎本さんに企画を持ちかけました。

「商店街のみんなで、ジョークの貼り紙をやりませんか?」

榎本さんも、

「それ、面白そうだね」

となって、実現することになりました。

これが「ジョークの貼り紙プロジェクト」の始まりです。

ジョークは店主自身に考えてもらった

私たちが各店舗のジョークを全部考えたわけではありません。

せっかくなら、それぞれのお店の人に、自分の商売にちなんだジョークを考えてもらいたい。

そこで一度、ジョークを考えるためのワークショップを開きました。

とはいえ、商店街です。

みんながワークショップに出てきてくれたわけではありません(笑)。

それでも、それぞれのお店が、

「うちの店だったら、どんなジョークが面白いだろう」

と考えました。

そして完成したジョークをA4の紙に印刷し、それぞれのお店の店頭に貼り出しました。

大きな看板を製作したわけではありません。

デジタルサイネージを設置したわけでもありません。

A4の紙です。

でも、そこに書いてあることが、いつもの商店街とはちょっと違いました。

「ファミリーマートが24時間営業やめました。」

今でも覚えている貼り紙があります。

ファミリーマートの店頭に、

「ファミリーマートが24時間営業やめました。」

と貼り出しました。

もちろん、エイプリルフールのジョークです。

ところが、これが思った以上に反響を呼びました。

反響がありすぎて、途中で貼り紙を剥がしてしまったほどです。

A4の紙に書かれた、たった一つのジョークです。

でも、いつも見慣れているお店の前に、

「えっ?」

と思う言葉が出ていたら、人は気になります。

立ち止まる人もいる。

誰かに話す人もいる。

写真を撮る人もいる。

私は看板を考えるとき、ただ情報を表示するだけではなく、人の気持ちが一瞬動くことを大切にしています。

この貼り紙にも、それと同じことが起きました。

A4の紙一枚が、ネットニュースになった

そして、このプロジェクトは商店街の中だけでは終わりませんでした。

ネットで取り上げられ始めたのです。

Yahoo!ニュースやロケットニュースなどでも紹介されました。

さらに、東京新聞の夕刊1面にも取り上げられました。

私は、この広がり方がとても面白いと思いました。

最初にやったことは、

商店街の店頭にA4の紙を貼っただけ

なんです。

それが街で人の目に留まり、メディアに取り上げられ、ネットへ広がっていった。

今なら「バズる」という言葉を使うのかもしれません。

でも、私たちが最初から考えていたのは、ネット上で何かをすることではありませんでした。

リアルな商店街を面白くすること。

出発点はそこでした。

今度は、ネットを見た人が商店街へやってきた

さらに面白いことが起こりました。

ネットで「ジョークの貼り紙プロジェクト」を知った人が、

実際の貼り紙を見るために、野方商店街へ来てくれたのです。

ここで、流れが逆になりました。

最初は、

リアルな商店街
↓
A4の貼り紙
↓
ネットで話題になる

でした。

ところが今度は、

ネットで記事を見る
↓
面白そうだと思う
↓
野方商店街へ行く
↓
実物の貼り紙を見る

となった。

リアルからネットへ。

ネットから、またリアルへ。

私は、この行ったり来たりが、これからの店舗集客では大切だと思っています。

リアルとネットをつなぐのに、必ずしもデジタルは必要ない

「リアルとネットを連動させましょう」

というと、何か難しい仕組みを想像するかもしれません。

QRコードを付ける。

専用アプリを作る。

デジタルサイネージを設置する。

SNSキャンペーンを行う。

もちろん、そういう方法もあります。

でも、野方商店街でやったことは違います。

A4の紙にジョークを書いて、店頭に貼った。

それだけです。

そこに、人が、

「面白い」

「誰かに教えたい」

「写真を撮りたい」

と思うものがあれば、人が自分のスマートフォンでネットへ運んでくれます。

だから私は、リアルとネットをつなぐために、必ずしもデジタルな仕掛けから考える必要はないと思っています。

まず、

リアルな場所に、人が反応したくなるものがあるか。

そこから考えてもいいのです。

看板からネットへ。ネットからお店へ

これは、普通の店舗看板でも同じです。

街を歩いていて面白い看板を見つける。

「何これ?」

と思う。

写真を撮る。

SNSに投稿する。

それを見た別の人が、

「この店、どこにあるんだろう」

と調べる。

そして実際に店へ行く。

反対方向もあります。

ネットでお店を知る。

興味を持って店へ行く。

そこで面白い看板や外観を見つける。

また写真を撮ってネットへ投稿する。

そうやって、

リアル→ネット→リアル→ネット

と情報が循環していくことがあります。

ネットと看板を別々に考えてしまうと、この循環が見えにくくなります。

話題は偶然に生まれるだけではない

もちろん、面白い看板を作ったからといって、必ずネットで拡散されるわけではありません。

テレビや新聞が必ず取材してくれるわけでもありません。

そこは誤解してほしくありません。

でも私は、人が話したくなるきっかけは、ある程度意識して設計できると思っています。

意外な言葉。

思わず二度見する形。

写真を撮りたくなる仕掛け。

誰かに教えたくなるジョーク。

野方商店街のプロジェクトでも、

「普通のお知らせをA4で貼りましょう」

という企画だったら、ここまで話題にはならなかったでしょう。

「エイプリルフールに商店街全体でジョークを貼る」

という仕掛けがあったから、人に話したくなる理由が生まれました。

この「リアルで話題を作り、それをネットへ広げる」という考え方については、別の記事でさらに詳しく書きます。

私が関わったのは、最初の1回だけだった

このプロジェクトについて、もう一つうれしいことがあります。

私が発案者として直接関わったのは、第1回だけです。

ところが、その後も野方商店街では、エイプリルフールになると「ジョークの貼り紙プロジェクト」が続けられています。

私の手を離れてからも、商店街の企画として残っていったのです。

ある年には、商店街に関する賞も受賞したと聞きました。

最初は、

「エイプリルフールに、みんなでジョークの貼り紙をやったら面白いんじゃない?」

というアイデアでした。

それが続いて、商店街の恒例行事になった。

私は、こういう仕事も看板や店頭広告の面白さだと思っています。

広告は、ただ商品を売るためだけのものではありません。

街をちょっと面白くすることもできる。

人と店が会話するきっかけにもなる。

そして、その面白さがネットへ運ばれれば、今度は街の外にいる人にも届きます。

「ネットか、看板か」ではない

ネット集客をやるのか。

看板集客をやるのか。

私は、この二つを分けて考えなくてもいいと思っています。

リアルで面白いものをつくる。

それを人がネットへ運んでくれる。

ネットで知った人が、リアルなお店へやってくる。

そこでまた何かを見つけて、ネットへ持ち帰る。

野方商店街のジョークの貼り紙プロジェクトは、そのことを私に見せてくれました。

始まりは、A4の紙でした。

その紙がネットニュースになり、新聞にも載り、そして人を商店街へ連れてきた。

ネットの向こう側には、人がいます。
看板の前にいるのも、人です。

だったら、その二つをつなぐものは、最新の技術だけではない。

「これ、面白いな」

という、人の気持ちなのかもしれません。

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