看板を作ろうと思ってネットで検索すると、たくさんの商品が出てきます。
スタンド看板、A型看板、プレート看板、駐車場看板。
サイズを選び、用意されたテンプレートに店名や営業時間などを入れれば注文できるものもあります。
便利になったなと思います。
では、わざわざ看板屋に相談して、オーダーで看板を作る必要はあるのでしょうか。
私は、作りたいものが明確な人なら、テンプレート看板で十分な場合もあると思っています。
反対に、
「どんな看板を作ったらいいのか分からない」
「せっかく作るなら集客につなげたい」
「自分の店らしい看板にしたい」
という人なら、オーダーで考える意味が出てきます。
テンプレート看板とオーダー看板。
その違いは、単に「既製品か特注品か」だけではありません。
私がこれまで看板の仕事をしてきて感じる一番大きな違いは、
「何を作るか」が決まっているのか。
それとも「何を作るべきか」から考えるのか。
ということです。
作りたいものが決まっているなら、テンプレートでもいい
たとえば置き看板。
お客様が手書きのスケッチを持ってきて、
「こんな看板を作りたいんです」
と相談されることがあります。
大きさも決まっている。
入れたい文字も決まっている。
置く場所も決まっている。
作りたいものがここまではっきりしているなら、それをきちんと形にすればいい。
ネット通販などで条件に合うテンプレート看板が見つかるなら、それを利用する方法もあります。
私は、何でもオーダーで作った方がいいとは思っていません。
既製の形から選べるのであれば、一般的にオーダーよりコストを抑えやすい。
欲しいものが決まっている人にとっては、テンプレート看板は便利な選択肢です。
では、オーダー看板は何が違うのでしょう。
ここで、私が手がけた「I LOVE 歌舞伎町」の話をしたいと思います。
最初の依頼は、ごく普通の看板だった
東京・新宿の歌舞伎町にあるビルから、看板の相談をいただいたことがあります。
耐震構造の関係でビルの補強が必要になり、そのタイミングで古くなった看板も変えることになりました。
それまで付いていたのは、言ってみれば、
「ザ・昭和」
という感じの看板でした。
担当者の方から最初に見せられた案は、各階に入っている店舗の看板を、それぞれの階の横に付けるようなものでした。
もちろん、それでも看板としての役割は果たします。
何階にどの店があるのかを知らせることはできます。
でも、私は思いました。
これでは普通すぎるなあ。
場所は歌舞伎町です。
日本でも有数の繁華街です。
せっかく大きな看板を作り直すのに、どこにでもありそうなテナント看板を付けるだけでは、集客という意味でも、ランドマークという意味でも弱い。
だったら、ここにしかない看板を作れないだろうか。
そこから考え始めました。
「I LOVE 歌舞伎町」を提案した
そこで生まれたのが、
「I LOVE 歌舞伎町」
という看板です。
「I LOVE NEW YORK」へのオマージュです。
ただ、思いついたからといって、そのまま作ったわけではありません。
「I LOVE 歌舞伎町」という言葉や表現を使って問題がないか。
不正競争防止法や商標など、いろいろ調べました。
そして、デザインとして提案しました。
ところが、担当者の方には反対されました。
まあ、そうですよね。
最初に考えていた普通のテナント看板とは、まったく違うものが出てきたわけですから。
ところが、そのデザインを見たオーナーが、
「これだ」
と思ってくださった。
最終的には、オーナーの判断で採用が決まりました。
全長19メートルの看板が、街の目印になった
完成した「I LOVE 歌舞伎町」は、全長約19メートル。
ハートの部分だけでも約2.5メートルあります。
単に大きな文字を付けただけではありません。
設置場所はT字路の突き当たりで、遠くからでも視線が向かいやすい。
赤い砲弾型LEDを点滅させる仕掛けも取り入れました。
企画段階から、通行する人がスマートフォンで写真を撮り、それがSNSなどで広がっていくことも考えていました。
その後、「I LOVE 歌舞伎町」はテレビドラマやライブ、歌舞伎町関連のニュースなどでも背景として使われるようになりました。
東京屋外広告協会会長賞を受賞し、DSA日本空間デザイン賞2015にも入選しました。
私が最初に感じた、
「普通の看板では、ランドマークとして弱い」
というところから始まった仕事が、結果として街の目印の一つになっていったのです。
もちろん、すべての店舗にこんな巨大な看板が必要なわけではありません。
この事例で伝えたいのは、大きさではないんです。
オーダー看板は「豪華な看板」という意味ではない
「I LOVE 歌舞伎町」の話をすると、
「やっぱりオーダー看板は、大きくて特別なものなんですね」
と思われるかもしれません。
でも、そうではありません。
もっと小さな仕事でも、オーダーで考える意味はあります。
以前、
「ベランダに看板を付けたい」
という相談を受けたことがあります。
ところが、実際に見てみると、そこに看板を付けてもあまり目立たない。
そこで私は、ベランダに看板を付けるのではなく、入口に置き看板を置くことを提案しました。
その案を採用していただきました。
大きな看板を小さな看板に変えたわけです。
これも私にとっては、オーダーの提案です。
お客様から、
「ここに看板を付けたい」
と言われたからといって、必ずその通りに作るとは限りません。
何のためにその看板を付けるのか。
誰に見てもらいたいのか。
そこから考えた結果、
「それなら、こちらに置いた方がいいですよ」
となることもあります。
商売への想いを聞くと、提案したくなる
私は、お客様が作りたいものを明確に持っているなら、その希望を形にする仕事も大切だと思っています。
一方で、打ち合わせをしていて、お客様がご商売に対する想いを話し始めることがあります。
「もっと地域の人に知ってもらいたい」
「こういうお客様に来てもらいたい」
「こんなお店にしていきたい」
「せっかく看板を作るなら、この店らしいものにしたい」
そんな話を聞くと、私は提案したくなります。
「だったら、こんな看板にしたらどうでしょう」
と。
ここで初めて、看板の形を考え始めます。
先に「壁面看板にしましょう」「置き看板にしましょう」と決めるのではありません。
お客様は何をしたいのか。
そのためには、どんな看板がいいのか。
順番が逆なんです。
テンプレートとオーダーでは、スタート地点が違う
テンプレート看板を選ぶときは、
「この置き看板が欲しい」
「このサイズがいい」
「ここに店名を入れたい」
というように、すでに作りたいものが見えています。
だから、
「何を作るか」→「どこで買うか」
と考えられます。
一方、オーダーで提案する場合は、
「何のために看板を作るのか」→「では、何を作るか」
から考えることができます。
この違いは大きいと思います。
「I LOVE 歌舞伎町」も、最初から、
「全長19メートルの『I LOVE 歌舞伎町』を作ってください」
と頼まれた仕事ではありません。
むしろ最初に見せられたものは、普通の各階のテナント看板でした。
そこから、
「この場所で本当に必要な看板は何だろう」
と考えた。
だから、最初の依頼とはまったく違うものが生まれました。
もちろん、オーダー看板はコストが高くなりやすい
オーダー看板にもデメリットがあります。
一番分かりやすいのは、コストが高くなりやすいことです。
テンプレート看板は、ある程度決められた形や仕様を利用できます。
一方、オーダーでは現場の条件を確認したり、打ち合わせをしたり、デザインを考えたり、場合によってはその看板のためだけの部材や造形物を製作したりします。
当然、その分のコストがかかります。
だから私は、
オーダーの方がいい看板で、テンプレートはダメな看板
とは考えていません。
目的に合っているかどうかです。
たとえば営業時間を知らせる置き看板が欲しくて、大きさもデザインも決まっている。
そんなときに、わざわざゼロから高い費用をかけてオーダーする必要はないでしょう。
逆に、
「集客したい。でも、どんな看板を作ればいいか分からない」
という人が、値段だけを見てテンプレートを選んでも、本来の目的を果たせないことがあります。
看板の値段を比べる前に、
自分は「看板というモノ」が欲しいのか。
それとも「看板で実現したいこと」があるのか。
一度考えてみると、選び方が変わってきます。
テンプレートかオーダーか。私はまず話を聞く
もし、
「テンプレート看板とオーダー看板、どちらにしたらいいですか?」
と聞かれたら、私はいきなりどちらかを勧めることはしません。
まず、お客様が看板に対してどんな想いを持っているのかをヒアリングします。
すでに作りたいものが明確なら、テンプレート看板で十分かもしれません。
でも、
「この店をもっと知ってもらいたい」
「お客様を増やしたい」
「この場所だからできる看板を作りたい」
そんな想いがあるなら、そこから一緒に考える。
ときには、お客様が最初に考えていたものとは、まったく違う看板を提案することもあります。
歌舞伎町のビルに、普通の各階看板を付けるはずだった仕事から、「I LOVE 歌舞伎町」が生まれたように。
ベランダに看板を付けるはずだった仕事が、入口の置き看板に変わったように。
看板を選ぶ前に、その看板で何をしたいのかを考える。
テンプレートか、オーダーか。
答えは、看板のカタログの中ではなく、お客様の話の中にあることもあります。





