「看板を作りたいのですが、どんな看板を付ければいいでしょうか」
こんな相談を受けることがあります。
実は、この質問は簡単なようで、けっこう難しいんです。
看板には、本当にたくさんの種類があるからです。
欄間看板、袖看板、置き看板、壁面看板、屋上看板、野立て看板、チャンネル文字、ウインドウシート、のぼり旗、LED看板……。
まだまだあります。
初めて看板製作を考えている人なら、「そんなに種類があるの?」と思うかもしれません。
でも、全部の名前を覚える必要はありません。
大事なのは、どの看板に、何をさせるのか。
私は、こちらの方だと思っています。
看板には、それぞれ仕事がある
私は昔から、看板を単なる「店名を表示するもの」とは考えていません。
看板には、それぞれ仕事があります。
遠くにいる人に、お店の存在を知らせる。 歩いている人に「あ、ここに店がある」と気づいてもらう。 店の前まで来た人に、メニューやサービスを伝える。
そして最後に、「ちょっと入ってみようかな」と思ってもらう。
同じ看板でも、役割が違うんです。
以前、私は『看板ひとつで売上が3倍になる魔法の誘客術』という本を書きました。その中で、看板には「目印」「イメージの演出」「活気の演出」「情報伝達」といった性格があると書いています。
もう一冊の著書『魅せる看板 儲かる看板』では、「お店の存在を知らせる」「情報を伝える」「お店の個性を演出する」という分け方をしました。
ずいぶん前に書いた本ですが、今読み返しても、基本的な考え方は変わっていません。
看板は、種類からではなく役割から考える。
これが看板作成で失敗しないための基本だと思っています。
店舗看板の「三種の神器」
店舗の看板を考えるとき、まず押さえてほしい3つがあります。
欄間看板、袖看板、置き看板。
私はこの3つを、勝手に「店舗看板の三種の神器」と呼んでいます。
もちろん、正式な業界用語ではありません。私の造語です。
でも長いこと看板の仕事をしてきて、この3つは実によくできた組み合わせだと思うようになりました。
理由は簡単です。3つとも、仕事が違うからです。
欄間看板は「お店の顔」
まずは欄間看板です。
店舗の入口の上あたりに付いている横長の看板を思い浮かべてもらえば分かりやすいでしょう。パラペットサインと呼ばれることもあります。
私が昔の本でこの看板を説明したとき、「お店の顔」と書きました。今でも、まさにそうだと思っています。
飲食店なら店名。 美容室なら、美容室だと分かる表示。 クリニックなら診療科目。
店の前に来た人が見たときに、「ここは何のお店なのか」が伝わらなければなりません。
ところが、看板デザインに凝りすぎると、この当たり前のことが抜けてしまうことがあります。
ロゴは格好いい。色もきれい。デザインもおしゃれ。でも、何のお店なのか分からない。
これでは、もったいない。
看板は作品ではありません。お客様に伝わって、初めて仕事をしたことになる。
まず欄間看板には、「お店の顔」としてしっかり働いてもらいます。
袖看板は、横から来る人をつかまえる
次は袖看板です。
建物から道路側へ突き出している看板で、「突き出し看板」とも呼ばれます。
なぜ袖看板が大事なのか。街を歩いている人は、いつも店の正面からやって来るわけではないからです。むしろ歩道を歩いている人は、建物に対して横方向に移動していきます。
そのとき、正面に付いている欄間看板は意外と見えません。でも、道路側へ突き出している袖看板なら見つけてもらえる。
つまり袖看板の仕事は、「ここにお店がありますよ」と知らせることです。
お店がずらっと並んでいる通りなら、この役割はさらに大きくなります。
いいお店なのに、気づいてもらえない。看板屋を長くやっていると、これは本当にもったいないと思います。お店を選んでもらう以前に、まず存在を知ってもらわなければ始まりません。
置き看板は「最後のひと押し」
三つ目は置き看板です。
A型看板やスタンド看板など、店頭に置いてある看板をイメージしてください。
飲食店なら、「今日のランチ」「おすすめメニュー」「本日限定○食」といった情報を出せます。美容室ならメニューや料金、整体院なら施術内容など、その店を利用するかどうかを決めるための、もう一段具体的な情報を伝えることができます。
私は昔、自著でA型スタンド看板について、「入店させる最後のひと押し」と書きました。これも、今でも変わらないと思っています。
店の存在には気づいた。何のお店かも分かった。でも、入るかどうか迷っている。
そんな人の背中を押すのが、置き看板の仕事です。
だから置き看板に店名だけ書いて終わりでは、少しもったいない。
「このランチ、食べてみたい」 「この値段なら入ってみようかな」 「こんなサービスがあるんだ」
そう思ってもらえる情報を出す。
置き看板は、お店の入口に一番近いところで働く営業マンです。
三種の神器で「視線のリレー」をつくる
欄間看板、袖看板、置き看板。
なぜ私が、この3つを「三種の神器」と呼んでいるのか。並べてみると分かります。
袖看板で、まずお店の存在に気づいてもらう。 そして、欄間看板で、何のお店なのかを伝える。 さらに、置き看板で、入店を後押しする。
看板から看板へ、お客様の視線をつないでいくわけです。私はこれを、「視線のリレー」と考えています。
一枚の看板ですべてを説明しようとすると、どうしても情報が多くなります。
店名も入れたい。電話番号も入れたい。営業時間も入れたい。メニューも入れたい。キャッチコピーも入れたい。全部入れたくなる。
でも、全部入れた結果、何を一番伝えたい看板なのか分からなくなってしまうことがあります。
だったら、役割を分ければいい。
袖看板には袖看板の仕事。 欄間看板には欄間看板の仕事。 置き看板には置き看板の仕事。
お客様の視線を、看板から看板へつないで、お店の入口まで連れてくる。
これが「三種の神器」の考え方です。
看板の種類は、まだまだある
もちろん、看板はこの3種類だけではありません。
建物の壁を利用する壁面看板。 建物の上に設置する屋上看板。 文字そのものを立体的に見せるチャンネル文字。 窓ガラスを広告スペースとして使うウインドウシート。 店先に動きや活気をつくる、のぼり旗やフラッグ。 離れた場所からお店へ誘導する野立て看板。 夜間に力を発揮するLED看板。
そして、形そのものにインパクトを持たせる立体看板もあります。トリックアート(トリック3Dアート)を使って、人が思わず二度見してしまうような見せ方もできます。
看板の種類は本当に多い。だからこそ、「どれが一番いい看板ですか?」という質問には、簡単には答えられません。その店に合っているかどうかが大切だからです。
目立てばいい、というものでもない
看板は目立つ方がいい。これは基本的には間違っていません。
でも、目立つことと、悪目立ちすることは違います。
以前、かなり目立つ面白い看板を作ったことがあります。確かに目立ちました。ところが、周囲からクレームが入り、最終的には撤去することになってしまいました。
目立てば成功、ではないんです。
業種によっても違います。にぎやかな看板が似合う飲食店もあれば、落ち着きや信頼感を出した方がいいクリニックもあります。高級店と激安店でも、当然、見せ方は変わります。立地によっても違います。
だから看板製作では、「何を作るか」だけではなく、「誰に、どこから見てもらって、その人にどう動いてもらいたいのか」まで考える必要があります。
看板の種類より、まず立地を見る
私は看板の相談を受けたとき、現地を見ることを大切にしてきました。同じ看板を作っても、設置する場所によって働き方がまったく違うからです。
駅から来る人が多いのか。車から見る人が多いのか。店の前を歩く人は、右から来るのか、左から来るのか。道路の反対側から見えるのか。街路樹や電柱に隠れないか。夜になると、どう見えるのか。
こういうことは、看板のカタログを見ているだけでは分かりません。
だから、「この看板が人気だから、うちにも付けよう」ではなく、「この場所なら、どの看板に何をさせるか」と考える。これが大事です。
看板屋に相談するときも、「このサイズの看板はいくらですか?」と聞くだけではなく、「この店なら、どんな看板が集客に効果的ですか?」と聞いてみてください。
看板製作や看板作成は、サイズと材料と価格だけで決めるものではないと私は思っています。
看板は、一枚で働かせない
看板製作というと、一枚一枚の看板を考えがちです。でも、お店全体で考えてみてください。
遠くから気づかせる。 近づいたら、何のお店なのか伝える。 店頭で、もう少し詳しい情報を伝える。 そして最後に、入店を後押しする。
それぞれの看板に、それぞれの仕事をさせればいいんです。
欄間看板、袖看板、置き看板。この三種の神器だけでも、仕事はまったく違います。必要なら、そこに壁面看板やウインドウシート、立体看板などを組み合わせる。
大切なのは、看板の数を増やすことではありません。必要な場所に、必要な看板を置くこと。
そして、看板は、一枚で働かせない。
遠くから気づかせる看板。 何のお店かを伝える看板。 入店の最後のひと押しをする看板。
それぞれに役割を持たせて、お客様の視線をお店の入口までつないでいく。
看板は、付ければ勝手に仕事をしてくれるわけではありません。こちらから、ちゃんと仕事を与えてあげる必要があります。
私は、そこまで考えるのが本当の看板製作だと思っています。
出典について
今回は、看板の一般的な種類・分類を補強する参考情報として、東京屋外広告美術協同組合の「屋外広告の基礎知識」を記事末に参考資料として1本だけ置く。
東京屋外広告美術協同組合「屋外広告の基礎知識」





