「看板屋って、何をする仕事ですか?」
そう聞かれたら、「看板を作って、取り付ける仕事です」と答えるのが一番簡単です。間違いではありません。でも、実際にやっていることは、もう少しいろいろあります。
お客様と打ち合わせをする。現地を見に行く。どんな看板がいいか考える。見積もりを作る。デザインする。看板を製作する。そして最後に、現場で取り付ける。
場合によっては役所への申請もあるし、電気工事もある。高い場所に看板を付けるなら、高所作業車を使うこともあります。大家さんや不動産会社との調整が必要になることもあります。
看板を付けるだけなのに、意外とやることが多いんです。今回は、そんな看板屋の仕事について書いてみます。
まず、お客様の話を聞く
看板製作の仕事は、いきなり看板を作るところから始まるわけではありません。まず、お客様の話を聞きます。
「新しく店を出すので看板を作りたい」「今の看板が古くなったので交換したい」「もっと目立つ看板にしたい」「何を付ければいいか分からないので提案してほしい」。逆に、「作りたいものは決まっているので、見積もりだけ欲しい」という場合もあります。相談の内容は、本当にいろいろです。
だから最初に、何を作りたいのか、誰に見てもらいたいのか、予算はどのくらいなのか、いつまでに必要なのか。そんな話を聞きます。
私はここで、お客様が言ったものをそのまま作ればいいとは思っていません。「この場所なら、こっちの方がいいんじゃないですか」と提案することもあります。せっかく看板屋に頼むのなら、そういう話も聞いてみてほしいと思っています。
現地を見ると、話が変わることがある
次に大事なのが現地調査です。図面や写真だけでは分からないことが、現地にはたくさんあります。
どこから人が歩いてくるのか。道路の反対側から見えるのか。電柱や街路樹に隠れないか。建物のどこに取り付けられるのか。2階以上なら高所作業車が必要なのか。電源はどこにあるのか。既存の看板はどうなっているのか。
実際に現地へ行ってみると、「ここに付ける予定だったけど、こっちの方がいいな」となることもあります。
前の記事でも書きましたが、看板にはそれぞれ仕事があります。袖看板なら、通行人にお店の存在を気づかせる。欄間看板なら、お店の顔になる。置き看板なら、入店の最後のひと押しをする。だから、看板の種類を決める前に、どこから、どう見えるのかを考えなければなりません。
現地を見たら、次は提案です。どんな看板にするか。どのくらいの大きさにするか。どこに付けるか。照明はどうするか。材料は何を使うか。そこから見積もりを作ります。
この前の記事で書いたように、看板価格は本当に幅があります。数万円でできる看板もあれば、立体造形看板やLEDチャンネル文字、大型の電飾看板など、100万円を超えるものもあります。予算が合わなければ、仕様を変えることもあります。例えば、電飾看板をアルミ複合板の看板にして、スポットライトで照らす。単純に小さくするのではなく、必要なものを残しながら、予算に合わせていく。こういうことも、看板屋の仕事です。
デザインして、実際に看板を作る
提案と見積もりが決まったら、デザインに入ります。店名をどう見せるか。文字の大きさはどうするか。色はどうするか。何を書いて、何を書かないか。
看板の場合、きれいにデザインするだけでは足りません。遠くから読めなければ意味がない。一瞬で何の店か分からなければならないこともあります。
デザインが決まれば、いよいよ製作です。ここで初めて、多くの人が想像する「看板屋らしい仕事」になってきます。でも、私がこの仕事を始めた頃と今では、看板の作り方もずいぶん変わりました。
昔は手で書いていた
昔の看板屋には、文字を手で書く職人さんがいました。筆を使って、看板に文字を書く。ペンキを使って仕上げる。それが、カッティングシートを切って貼る方法に変わっていきました。さらにインクジェットプリンターが普及して、写真や複雑なデザインも大きく出力できるようになった。
私自身、手書き、ペンキ加工、カッティングシート、インクジェットという看板製作の変化を見てきました。今ではLED看板もあります。デジタルサイネージもあります。立体造形もあります。トリックアート(トリック3Dアート)を看板に応用することだってできます。
作り方はずいぶん変わりました。でも、変わらないものもあります。ちゃんと見えること。ちゃんと伝わること。そして、安全であること。ここは昔も今も同じです。
実は、看板屋は申請や調整もする
看板屋の仕事で、一般の人にはあまり知られていないのが、この部分かもしれません。看板は、「作りました。じゃあ付けましょう」で済まない場合があります。
屋外広告物の申請が必要になることがあります。道路を使って工事をするなら、道路使用許可が関係する場合もあります。道路を継続的に使用するような場合には、道路占用の手続きが関係するケースもあります。建物に穴を開けるなら、大家さんや不動産会社との確認が必要になることもあります。電飾看板なら電気工事。古い看板が付いていれば撤去。2階、3階なら高所作業。現場によって、必要なことが全部違います。
東京都では屋外広告物の設置は原則として許可が必要とされ、一定の例外や規模による扱いがあります。また、看板の広告主・所有者や設置を請け負う者などには、安全に管理する義務も定められています。道路上で工事や作業を行う場合などには、管轄する警察署長の道路使用許可が必要になるケースがあります。
だから看板屋は、看板を作るだけではなく、「どうやったら、この看板をきちんと設置できるか」まで考えています。
看板屋で一番大事な仕事は何か
もし、「看板屋の仕事で、一番大事なのは何ですか?」と聞かれたら、私はこう答えます。安全に、事故なく設置すること。
デザインも大事です。集客できる看板を考えることも大事です。お客様に喜んでもらうことも、もちろん大事です。でも、その前に安全です。
昔、施工中に作業員が足場から落下したことがありました。本当にヒヤッとしました。幸いヘルメットをかぶっていて、大事には至りませんでした。でも、もし打ちどころが悪かったら。もし下に人がいたら。そう考えると、看板工事を軽く考えてはいけないと改めて思います。
看板は、完成したら何年もそこにあります。雨の日もあります。強い風が吹く日もあります。その下を毎日、人が歩きます。だから、どんなに格好いい看板でも、どんなに目立つ看板でも、どんなに集客できる看板でも、安全でなければ意味がない。これは、看板屋として忘れてはいけないことだと思っています。
東京都も、落下や倒壊のおそれがある広告物の管理を禁止し、広告主や所有者、設置を請け負う者などに必要な管理を求めています。
看板屋なら、どこでも同じなのか
看板屋といっても、いろいろあります。自社でデザインから製作、施工までやっている会社。製作は協力会社にお願いする会社。施工を外部の職人さんにお願いする会社。受注や手配を中心にしている会社。どれが絶対に悪い、という話ではありません。看板の仕事は、もともといろいろな専門業者が関わることがあります。
ただ私は、看板屋を選ぶなら、「実際にどうやって作って、どうやって取り付けるのかを説明できる会社か」は見た方がいいと思っています。特に施工や安全について質問したときに、きちんと答えてくれるか。そして、自社で製作・施工までできる体制を持っている看板屋なら、安心材料の一つになると思います。
東京都内で屋外広告物の表示・設置工事を業として請け負う場合は、東京都への屋外広告業の登録も必要です。東京都も看板設置を依頼する際には、登録を受けた業者への依頼を案内しています。
看板屋は「板を作る仕事」ではない
こうして並べてみると、看板屋の仕事は結構あります。打ち合わせ。現地調査。提案。見積もり。デザイン。製作。申請。電気工事。大家さんや不動産会社との調整。既存看板の撤去。高所作業。そして施工。
もちろん、すべての案件で全部やるわけではありません。小さな看板一枚なら、もっとシンプルです。でも、大きな看板になればなるほど、関わる人も仕事も増えていきます。
だから私は、看板屋は「板を作る仕事」ではないと思っています。お客様が何を伝えたいのかを聞いて、現地を見て、どう見せるかを考えて、形にして、最後は安全に取り付ける。そこまでやって、ようやく看板屋の仕事が終わります。
そして取り付けたその日から、今度は看板の仕事が始まります。看板は24時間働いてくれる営業マン。その営業マンを、きちんと働ける状態で送り出す。それが看板屋の仕事なのかもしれません。





