「この壁に看板を付けたいんです」
看板の相談を受けると、お客様の中では、すでに取り付けたい場所が決まっていることがあります。
入口の上。
建物の壁面。
2階や3階の窓の横。
道路に面したところ。
でも、看板屋の立場からすると、
「では、そこに付けましょう」
と、すぐには言えません。
最初に確認しなければならないのは、デザインでも看板の色でもありません。
そもそも、その場所に看板を付けられるのか。
ここからです。
看板には、建物の条件、施工上の安全性、法律や建物側のルール、道路との関係など、設置する前に確認しておかなければならないことがあります。
さらに、もう一つあります。
付けることはできても、そこに付けて本当に見えるのか。
看板は、建物に取り付けることが目的ではありません。
お客様に見つけてもらって、初めて仕事をしてくれます。
今回は、私が看板を設置する前に現場で何を見ているのか、実際の仕事をもとにお話しします。
まず「この建物に看板を付けられるのか」を確認する
自分の建物であれば比較的自由に考えられますが、テナントの場合はそうはいきません。
建物によっては、看板の設置そのものに制限があります。
たとえば、
「建物に穴を開けてはいけない」
という条件があることもあります。
当然ですが、勝手に壁に穴を開けて看板を取り付けるわけにはいきません。
建物のオーナーや管理会社への確認が必要になることもあります。
場合によっては、私たちが看板の施工方法を図面にして提出することもあります。
どこに付けるのか。
どのような方法で固定するのか。
建物にどのような加工をするのか。
「看板を付けてもいいですか」
だけではなく、どうやって付けるのかまで確認してもらうわけです。
看板を作ってから、
「ここには付けられません」
となったら大変です。
だから、看板製作を進める前に建物側の条件を確認しておく必要があります。
壁があれば、看板を付けられるわけではない
建物側から許可が出れば、それで設置できるとも限りません。
次に考えなければならないのが、安全性です。
看板には重量があります。
さらに屋外に付ける看板なら、風の影響も受けます。
そのため、
「ここに壁があるから、ここに付けよう」
というわけにはいきません。
たとえば建物の躯体が木造の場合など、建物の構造や取り付ける場所によっては、希望する看板を安全に固定できないことがあります。
そんなときは、お客様の希望をそのまま通すのではなく、別の方法を考えます。
以前、電飾看板を付けたいというお客様がいらっしゃいました。
ところが、取り付け条件を考えると、重量のある電飾看板をそのまま設置するのは難しい。
そこで私は、代替案としてアルミ複合板の看板を提案したことがあります。
電気は入りません。
でも、その分軽い。
お客様が最初に希望した看板とは違いますが、安全に設置できる方法を考えれば、別の答えが出てくることがあります。
看板屋の仕事は、お客様から言われた看板をそのまま作って付けることだけではありません。
付けられないなら、どうすれば付けられるのかを考える。
そこにも提案が必要です。
道路との関係で付けられない看板もある
建物だけを見ていても分からないことがあります。
その一つが、道路との関係です。
たとえば袖看板を付けたい。
ところが建物の前が車道で、希望する高さや位置には付けられない。
そういうケースもあります。
建物の敷地内に置き看板を出したくても、そもそも置けるスペースがないこともあります。
看板は建物の一部だけを見て計画するのではなく、
建物、敷地、道路、周囲の状況まで含めて考える。
だから私は、現場を見ることを大事にしています。
看板設置に関する法律や屋外広告物のルールについては、別の記事で詳しく取り上げますが、「ここに付けたい」と思った場所ならどこでも自由に付けられるわけではありません。
「付けられる」と「見える」は別の話
ここまでは、看板を物理的に設置できるかという話です。
でも、私はもう一つ確認します。
そこに付けて、本当に見えるのか。
これが意外と重要です。
たとえば、2階や3階などにある空中店舗。
お店の近くに看板を付けることはできる。
でも、通行人からほとんど見えなければ、せっかく看板を作っても集客にはつながりにくくなります。
設置できる場所と、看板を設置する意味がある場所は、必ずしも同じではありません。
だから私は、看板を取り付ける場所の目の前だけを見ません。
10メートルくらい離れて見ます。
そこから看板がどう見えるのかを確認するんです。
店の前ではよく見えていても、少し離れると街路樹に隠れるかもしれません。
電柱が邪魔になるかもしれません。
ほかの看板に紛れてしまうこともあります。
看板は、お客様がお店の前に立ってから見るものではありません。
歩きながら近づいてくる途中で視界に入り、
「あそこにお店がある」
と気づいてもらうものです。
だから、看板を付ける場所から見るのではなく、看板を見る人がいる場所から見る。
現場では、この視点が欠かせません。
通行人立地とロードサイド立地では戦略が違う
ただし、「10メートル離れて見る」という考え方が、どんな場所でも同じというわけではありません。
看板を誰に見せるかによって、掲出戦略は変わります。
歩いている人が多い通行人立地と、車で通る人が多いロードサイド立地では、看板を見る人のスピードが違います。
歩行者なら、看板を見ながら近づいてくる時間があります。
一方、ロードサイドでは車が走っています。
建物のすぐ近くまで来てから看板に気づいたのでは、遅いことがあります。
そこでロードサイド立地では、ポール看板が有効です。
道路からある程度離れたところからでも、
「ここに店がある」
と気づいてもらう。
そのためには、建物の壁面だけではなく、高い位置に掲出するポール看板という選択肢も出てきます。
同じお店の看板でも、立地が変われば正解も変わる。
「壁が空いているから、ここに看板を付ける」
ではなく、
誰が、どこから、この看板を見るのか。
そこから設置位置を考えた方がいいんです。
電飾看板なら、電気の確認も必要になる
照明の入る看板なら、さらに確認することがあります。
電気です。
電飾看板や照明を使った看板は、本体を取り付ければ完成というわけではありません。
電源をどうするのか。
配線をどうするのか。
必要に応じて、タイマーを設置することもあります。
私たちの場合、一次側の電気工事は専門の電気工事業者にお願いします。
二次側の電気工事については、第二種電気工事士の資格を持つ者が対応しています。
こうしたことも、看板を作る前に確認しておかないと、現場へ行ってから、
「電気をどうしよう」
ということになってしまいます。
看板はデザインだけを見ていると、こうした裏側がなかなか見えません。
でも、実際の看板工事では、表から見えない部分の確認がかなり多いんです。
取り付けるときから、外す日のことも考える
テナントの看板なら、もう一つ考えておきたいことがあります。
いつか、その看板を外す日が来るということです。
退去するときには、看板を撤去して原状復帰しなければならないことがあります。
だから私は、看板を取り付ける段階から、外すときのことも考えます。
たとえばコンクリートの建物で、タイルが張ってある場合。
看板を固定するために穴を開ける必要があるなら、できるだけタイル本体ではなく、タイルの目地に穴を開けるようにします。
その方が、看板を撤去したあとに補修しやすいからです。
取り付けるときには数年後のことまで考えないかもしれません。
でも、退去するときになって、
「こんなところに穴を開けてしまった」
と気づいても遅い。
看板設置は、付ける日だけの工事ではありません。
安全性と違反看板については、無理に進めない
お客様から、
「どうしてもここに付けたい」
と言われることもあります。
できる限り希望には応えたい。
でも、私が一度立ち止まるケースがあります。
一つは、安全性に問題がある場合。
もう一つは、違反看板になる可能性がある場合。
安全に固定できない場所に、無理をして看板を付ける。
設置してはいけない条件なのに、そのまま進める。
そこは、お客様の希望だからという理由で進めるわけにはいきません。
看板は屋外で長い間、人の頭の上に付いていることもあります。
事故が起きてからでは遅いんです。
違反看板についても同じです。
屋外広告物には自治体ごとの条例や許可制度などがあります。設置場所や看板の種類、規模などによって扱いも変わります。
「ほかの店も付けているから大丈夫だろう」
ではなく、設置する看板について確認する必要があります。
このあたりは、今後「屋外広告物法とは」「看板設置に許可は必要?」「違反看板とは何か」で、もう少し詳しく書いていきます。
看板を作る前に、一度その場所から離れてみる
看板を設置する前に確認したいことは、思っている以上にあります。
建物に看板を付けてもいいのか。
安全に固定できるのか。
道路や敷地の条件はどうか。
管理会社やオーナーの承認は必要か。
照明を入れるなら電気はどうするのか。
将来、原状復帰できる施工方法なのか。
法律や条例上、問題はないのか。
そして最後に、
そこに付けて、本当にお客様から見えるのか。
私は現場へ行くと、看板を付ける予定の場所ばかり見ているわけではありません。
少し離れます。
通行人が歩いてくる方向へ行って、10メートルくらい離れたところから建物を見る。
ロードサイドなら、車で走ってくる人からどう見えるのかを考える。
すると、建物の前に立っていたときには分からなかったことが見えてきます。
看板を付ける場所を決めるなら、一度、その場所から離れてみる。
看板は、付けた場所ではなく、見られる場所から考える。





