看板に「謎」があると、人はなぜ続きを知りたくなるのか

街を歩いていて、こんな看板があったらどうでしょう。

「来ればわかる」

何がわかるのか。どこへ来ればいいのか。そもそも、何の看板なのか。

前の記事でも紹介しましたが、この看板は実際に存在しました。テレビ朝日の『スーパーJチャンネル』が、この謎を追いかけています。

町の中に「来ればわかる」という看板があり、矢印の方向へ進んでいく。すると、また同じような看板がある。

さらに進んでいくと、だんだん山の方へ向かっていく。

最後にたどり着いたのは石材屋さんでした。

しかも、「来ればわかる」はキャッチコピーではなく会社名だったんです。

私も番組から、この看板についてどう思うか、看板の専門家としてコメントを求められました。

考えてみると、不思議な看板です。

看板というと、普通は「わかりやすくしましょう」と言われます。

ところが、この看板は逆です。

わからないから、気になる。看板には、そんな力もあります。

 

「ここが谷ラーメンです」

私は街を歩いて看板を見るのが好きです。いわゆる看板ハンターです。

そんなことを長年やっていると、ほんの少し言葉が違うだけで、妙に気になる看板に出会うことがあります。

以前、

「ここが谷ラーメンです」

という看板を見たことがあります。

 

普通なら、「谷ラーメン」だけでも看板として成立します。

でも、「ここが谷ラーメンです」。

私はこれを見たとき、面白いセンスだなと思いました。なぜ「ここが」と付けたのか。そこに何か特別な理由があるのか。

それはわかりません。だから、勝手に理由を作るつもりもありません。でも、「ここが」という、たった三文字が加わっただけで、普通の店名看板とは少し違って見える。

私は、こういう小さな違和感が好きなんです。

大げさな仕掛けを作らなくても、人の頭の中に小さな「?」は作れます。

 

「謎の店」と書かれたら、やっぱり気になる

街中で、

「謎の店」

という看板を見たこともあります。

これも気になります。

何が謎なんだ?
「謎の店」が店名なのか?
本当に何をやっているかわからない店なのか?
中に入ったら何があるのか?

全部説明してある看板なら、「ああ、そういう店ね」で終わります。

ところが、少しだけわからないものが残っていると、

「もう少し知りたい」

となることがあります。

 

「来ればわかる」。
「ここが谷ラーメンです」。
「謎の店」。

どれもタイプは違います。

でも私が引っかかったところには、少し共通点があります。

言葉を見た瞬間に、頭の中で会話が始まるんです。

「どういうこと?」

これが、看板を見る時間をほんの少し長くしてくれます。

なぜ人は「わからない」が気になるのか

この「続きを知りたくなる」心理については、心理学にも興味深い考え方があります。

カーネギーメロン大学のGeorge Loewensteinは1994年、『Psychological Bulletin』に発表した論文で、好奇心について**「情報ギャップ(information gap)」**という考え方を示しています。

簡単に言えば、自分が知っていることと、知りたいことの間に隙間がある。その隙間を意識すると、埋めたくなることがある、という考え方です。

「来ればわかる」は、まさに情報が足りません。

でも、まったく何もわからないわけでもない。

「来れば」ということは、どこかへ行けばいいらしい。

「わかる」ということは、その先に答えがあるらしい。

答えそのものは教えてくれない。でも、答えがあることは教えてくれる。

だから、

「じゃあ、何がわかるんだ?」

となる。

私は、このくらいの「わからなさ」が面白いと思います。

 

「わからない」と「気になる」は同じではない

ここは大事なところです。わからなくすれば、何でも人が興味を持つわけではありません。

たとえば、私は韓国語を読めません。街で韓国語だけの看板を見ても、何が書いてあるのかわからない。

でも、

「わからない。だから絶対に続きを知りたい」

となるとは限りません。

そのまま通り過ぎることもあります。

つまり、「わからない」と「気になる」は同じではない。これは看板を考えるときに注意した方がいいと思います。

まったく意味が取れない。
何をすればいいのかもわからない。
自分に関係があるのかさえわからない。

そこまでいくと、「謎」ではなく、単に「伝わらない看板」になってしまうことがあります。

「来ればわかる」が面白いのは、日本語として意味はわかるからです。

何がわかるのかだけが、わからない。

この違いは大きいと思います。

 

私も「謎」を使った看板を提案したことがある

私自身、実際の仕事で「謎」を使った看板を提案したことがあります。

クライアント名は出せませんが、デザイナーと一緒に、お客様とのオンラインミーティングに参加したときのことです。

私たちが提案したのは、

鯨の隠し絵を使った看板

でした。

看板の中に鯨が何匹か隠れている。

それを見た人に、

「鯨は何匹隠れているでしょう?」

と探してもらう仕掛けです。

でも、答えは看板には書かない。答えはQRコードの先で見てもらう。

これは看板が完成してから、

「そうだ、QRコードも付けよう」

となったわけではありません。最初から、そこまでセットで考えていました。

見る。
鯨を探す。
何匹いるのか考える。
答えが気になる。
QRコードを読み込む。
Webで答えを見る。

「?」から、その次の行動までを設計した看板です。

 

謎を作る目的は、人を困らせることではない

私はこの鯨の看板を考えるとき、単に「わからなくしてやろう」と思ったわけではありません。

むしろ逆です。

看板を見た人に、少し参加してもらいたかった。

普通の看板なら、見るだけで終わります。でも隠し絵なら、探します。

「あそこに一匹いる」

「こっちにもいるんじゃない?」

そんなふうに、看板との関わり方が変わります。

そして答えを知りたくなった人には、QRコードという次の入口を用意しておく。

謎には、出口が必要なんです。

「わからない」で終わらせるのではなく、

「知りたい」

から次の行動へつなげる。

これは、リアルな看板とWebをつなぐ一つの方法でもあります。

 

「来ればわかる」と鯨の隠し絵は似ている

考えてみると、「来ればわかる」と鯨の隠し絵には、少し似たところがあります。

「来ればわかる」は、矢印を追いかけていく。

鯨の隠し絵は、QRコードを読み込む。

方法はまったく違います。

でも、

「?」を作る

↓

行動してもらう

↓

答えにたどり着く

 

という流れは似ています。

昔なら、矢印を追いかけてもらう。

今なら、スマートフォンでQRコードを読み込んでもらう。

使う道具は変わっても、人の「知りたい」という気持ちは変わらないのかもしれません。

 

看板は全部説明しなくてもいい

看板の打ち合わせをしていると、

「あれも入れたい」

「これも伝えたい」

となることがあります。

店名。
電話番号。
営業時間。
商品。
サービス。
価格。
特徴。
キャッチコピー。

全部大切だから、全部入れたくなる。

その気持ちはわかります。

でも、全部を一枚に入れると、看板が説明書のようになってしまうことがあります。

もちろん、必要な情報は伝えなければいけません。

ただ、看板を見ただけで、すべてを100%理解してもらう必要があるのか。

そこは一度考えてみてもいい。

看板で興味を持ってもらう。
近づいてもらう。店頭の別の看板を読んでもらう。
スマートフォンで検索してもらう。
QRコードを読み込んでもらう。
店に入ってもらう。

看板は、次の行動への入口になることもできます。

 

謎には、ちゃんと答えを用意する

私は「謎」を看板に使うなら、その先に、「なるほど」が欲しいと思っています。

・引っ張るだけ引っ張って、答えがない。
・QRコードを読み込んでも、関係のない会社案内が出てくる。

それでは、「なんだよ」で終わってしまいます。

「来ればわかる」を追いかけたら、本当にそこに「来ればわかる」という石材屋さんがあった。

鯨を探したら、QRコードの先で答えがわかる。

「そういうことか」

という小さな納得がある。

謎を作るなら、答えまで考える。私はそこまで含めて、看板のアイデアだと思っています。

 

大きな謎でなくてもいい

「謎のある看板」と聞くと、ものすごい仕掛けを考えなければいけないように感じるかもしれません。

そんな必要はありません。

私が「ここが谷ラーメンです」を見て面白いと思ったように、ほんの少し言葉をずらすだけでもいい。

普通なら使わない言葉を一つ加える。
少しだけ続きを残す。
隠し絵を入れる。
答えを別の場所に用意する。

看板を見た人の頭の中に、「ん?」が一つ生まれればいい。

ただし、分からなすぎないこと。そして、その先にちゃんと答えがあること。

この二つは忘れない方がいいと思います。

「来ればわかる」。
「ここが谷ラーメンです」。
「謎の店」。

そして、私たちが提案した鯨の隠し絵。

街の中には、ほんの少し言葉や見せ方を変えただけで、人を立ち止まらせる看板があります。

何でもかんでも説明するのではなく、ときには一つだけ「?」を残してみる。

その「?」の先に、次の行動を用意しておく。

 

看板の仕事は、答えを教えることだけではないんです。

 

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